雨雲が空を覆う。眩しかった太陽の光はあっという間に世界を暗くする。ぽつ、ぽつ、と静かに地面に落ちては、それから次第に数多もの雫が降り注ぐ。数秒もかからず全身、雨に濡れた。確かに愛用の番傘は手にしていたのだけれどそれをさす気にはならなかった。



「雨…か、」



確かこんな土砂降りな日でも、あいつは待ち続けてた。いつ戻っくるか分からない親父を雨に濡れながら寂しそうに。そんな姿を幾度目にしただろう。飽きる程見てきたせいかそれが脳裏に焼き付いていて、離れない。あいつは今も、何かを待ち続けているのだろうか。



「兄、ちゃん…?」



何で、お前が。
声を聞いただけでも分かった。視界に神楽を捕らえた時、何かが俺の心臓を掴んだ様な錯覚を起こした。神楽の瞳は今にも泣きそうなくらい、切な気だった。そんな顔するな、そう言いたかったけれど今の自分にも言い聞かせている様で、思わず口を閉じた。俺はいつもみたいに笑えてる…?



「風邪、引くヨ」



そう言って神楽は番傘に自分を入れた。全身に感じた冷たさが遮られて自分の髪から伝い滴る雫だけが足元にぽた、ぽたと落ちる。隣にいる神楽は見ない内に女になってて、その碧い瞳を見るだけで壊したい衝動に駆られた。それを神楽が持っていた番傘にぶつけるかの様に、彼女の白い手を払い除け、番傘は重力に逆らう様に綺麗に放物線を描いては地に落ちた。



「っ、に…」



「神楽は、さ」



雨を遮る物が無くなった神楽はもう既に濡れていた。俺と同じはずなのに、神楽の髪は綺麗で思わず触れたくなった。何故、こんなにも違う。何故、こんなに彼女は汚れないでいるのだろう。汚したい、けど汚したくはない。そうやって今まで俺は葛藤し続けてた。他の奴だったら直ぐさま汚して壊してきたのに、何故か妹だけはそれが出来ないでいる。親父にすら、この手にかけたのに。
未だ不安げに顔を歪める神楽の頬に手を添えた。何年ぶりだろうか、この体温に触れたのも。それを感じた俺は酷く、苦しかった。



「俺の事…、」



好き…?それを口にした時の神楽はびっくりした様子で双眼に俺を映した。けどそれは一瞬でまた不安な表情に戻れば、次第に涙が彼女の目に溜まり、伝う。何かを口にしながら途切れ途切れに動く唇に、俺はゆっくりそれに口づけた。
















お前を突き放したのは俺なのに、まだお前を欲していた。














***
for 夜兎兄妹祭
by  憂








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