(๑≧౪≦)てへぺろ
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ありがとうございました。
一応一話目ができましたので、お載せしておきます。
今後更新毎にご報告にあがりますので、おまちください。












☆ ☆ ☆

登場人物紹介

新橋(しんばし) にこあ 18歳 ♂
 明るく活発的な金髪高校生。歌うことが好きで、人気者。陽和とは幼馴染で、ごく希に彼の店の手伝いをしている。低身長童顔がコンプレックスだと嘆いているが、それが良いと一部女子から人気を集めている。本人自覚なし。

日野(ひの) 陽和(ひより) 27歳 ♂
 通称「ぴよぴよ」。にこあの幼馴染であり現在社会人。21歳でカフェ&バーを開店後、人気上昇中の実力派若手経営者。物静かそうな外見とは裏腹に、ド変態。お兄さん的な存在でしたわれている。

金城(かねしろ) 夜人(なはと) 25歳 ♂
 陽和の大学時代の後輩。「きんじょー」と呼ばれており、陽和の経営する店のただひとりの正社員。彼の右腕的存在。特徴的な赤髪に黒縁メガネ。人と話すことが好きなわりに、歌うこともすきだったりする。基本気分屋。

中村(なかむら) 歩人(ふりすく) 18歳 ♂
 にこあの同級生。仲良しであり、サラサラ茶髪。にこあと同じく元気いっぱいな美少年。帰国子女であるが、もともと日本育ちであるため日本語上手。スキンシップが多い。

















「にこあたん、次3番テーブルにこれお願いね」
 休日午後3時半。都心の喧騒から少し離れた場所に、ひっそりと佇むカフェ&バー「orange bird」には、家事や仕事の間を縫って、小休憩をしにくる女性客がそこそこ来ていた。
 にこあたん、と呼ばれた少年―――――新橋にこあは、カウンターキッチンから手を伸ばす店長からケーキを受け取ると、笑顔でそれをテーブルへ運びにいく。
「お待たせいたしました、レアチーズケーキになります。ご注文は以上でお揃いですか?」
 短い金髪を横に流し、ピンで留めたその美少年が言葉を並べた。幼な顔からは想像がつかないほどしっかりとした口調。女性客達はうっとりとした顔で頷くと、下がっていく彼の姿を目で追う。
「いつみてもお人形さんみたい」
「可愛いのに綺麗だよね」
 口々に感想を述べて甘い吐息をこぼす奥様方とは逆に、にこあの表情は不機嫌丸出しだ。
 カウンターへ戻ってきた彼に苦笑を浮かべると、店長は頬をかく。
「お願いだからそんな表情しないで、頑張ってくれよ」
「陽和だって知ってんだろ、俺この顔コンプレックスなんだよ」
 店長改め日野陽和は、それを聞いて腕を組んだ。少し長めの茶髪を首後ろで束ねた優しい顔のオニイサンは、どこか考える素振りを見せてにこっと笑う。
「俺はその顔好みだけどね?食べちゃいたいくらい」
「死ねド変態」
 言うと同時に銀の丸盆を陽和へ投げつける。ひこあはいらっとした表情をすると、大袈裟にため息をついた。
「・・・昼の部(カフェ)はオーダーストップだろ?もう上がっていい?」
 心底つかれたとでも言いたそうな表情に頷くと、陽和はついっとスタッフルームに視線を向けた。
「頑張ったご褒美にまかない出してあげるから、着替えてきな」
「やった!んじゃお先〜」

 ぱぁっと明るくなった彼の笑顔につられて、陽和も笑う。彼は奥へと消えた小さな背にひとつ息をついて、ぽつりと零した。
「相変わらず可愛いなぁ」


 スタッフルームの扉を勢い良く開け放ち、中に入る。にこあは隅に置かれた名前入りのロッカーに手をかけると、早速着替え始めた。
店はそこまで大きいわけでも、小さいわけでもない。そのため昼の部も夜の部も、従業員は陽和を含めてふたりだけだ。高校に通っているにこあは土日の昼だけ手伝いにきているが、平日は常に同じ女のヒトが手伝いに来ている。夜の部のスタッフについては、まだ会ったことがないので良くは知らなかった。
「ほかに従業員雇えば、もうちょい楽に仕事できるんだろうけどなぁ」
 つぶやいてパーカーの袖に腕を通す。財布とスマホを手にしてロッカーの扉を閉めた。エプロンとカッターシャツを、出入り口付近に設置してある洗濯用のカゴに放り込む。
 と、扉が開いた。ごんっと嫌な音がして額が地味に痛み出す。ぶつかったんだと思った頃には尻餅をついていた。
「痛って・・・・」
 額を抑えさすりながら、顔をしかめる。ドアの隙間から顔を出した赤髪の男は眠たそうにあくびをしていたが、にこあの姿を見るやいなや扉を閉めてしゃがみこんだ。
「悪い、気づかなかった。大丈夫?」
 差し出された手を素直に取って立ち上がると、にこあは彼を見上げた。にこあの身長は160cm前後。対する赤髪の男の身長は180は優に超えている。黒縁メガネにシックな服装。少し長い赤髪は寝癖だらけだが、整った顔立ちをしている。黒い瞳にまっすぐ見つめられ、きゅんと胸が高鳴ったのは気のせいではない。
「・・・・?」
「あ、ごめん。ありがと」
 疑問符を浮かべる男から手を離すと、にこあはぎこちなくお礼を言った。そんな彼に笑いかけ、男はすっとかがみ込む。
「痛むならぴよぴよ先輩に薬もらってくるけど・・・大丈夫?」
「ぴ、ぴよぴよ先輩?」
 聞きなれない単語と心配げな表情に見つめられ、軽く頭が混乱した。男は「ああ、そうか知らないか」と苦笑すると丁寧に説明を始める。
「ここの店長中村陽和って名前だろ?大学時代世話になっててな、あの人の友達とか先輩とか後輩とか・・・みーんなぴよぴよって呼んでたんだ。だからぴよぴよ先輩、了解?」
 大人っぽい見た目とは違い、どこか子供っぽく笑う表情ににこあは頷いた。なんだか鼓動がドクドクと煩い。
「顔赤いけど・・・・ほんと大丈夫?」
 額に触れる手が冷たい。にこあは大きく頭を振ると、男から身を引きぎゅっと目をつむった。
「大丈夫!!です!!!!失礼します!!!」
 勢いまかせにそう叫ぶと、足早に部屋を出る。
 なんか変だ、心臓が煩い、触れられたところが熱い。
「っ・・・!!!!!」
 駆け足で廊下を突き進み、裏の通用口から外へ出る。ビルの間から見える秋空が、橙色に染まり始めていた。
 火照った頬を冷たい風が撫で、心臓が次第に落ち着きを取り戻す。腕時計を見ると16時を過ぎていた。昼のカフェは一旦閉店の時間だ。今度は19時からバーが開く。バーといってもお酒の数が豊富なだけで、自由主義な陽和のおかげでメニューはレストランとさほど変わらない。これで赤字になったことがないのだから、自分の幼馴染の凄さが良く分かる。
「はぁ」
 ため息をこぼすと、表通りに足を踏み出した。正面玄関からガラス張りの店を覗けば、陽和がテーブルの片付けをしている最中だった。
 にこあはこんこんっと扉を叩くと、陽和に向かって手を掲げてみせる。気づいた陽和は扉を開け中へ彼を招き入れると、そこらへん座ってて、と言葉を残した。
 にこあは言われた通り、カウンターの隅に腰を下ろす。てきぱきと仕事をこなす陽和をみつめながら、またひとつため息を零した。
「はい、どーぞ」
 出されたのは適温に温められたホットティーで、ありがとうと小さくつぶやいて口をつけた。ほのかに甘いさっぱりとした味わいに舌鼓を打ちながら、頬杖をつく。カウンターキッチンでカチャカチャと食器を洗う陽和が、そんな彼に問いを投げかけた。
「好きなドルチェ食べていいもいいし、もう少し待てるなら夕飯テキトーに出せるけど、どうする?」
「あー・・・うん、んじゃ今日は待つ」
「・・・・」
 普段なら「寮で飯食うからデザート全部くれ!」とか言うくせに、妙にしおらしいにこあに、陽和は首をかしげてみせた。
「なに」
 じっと見られると居心地が悪い。バツが悪そうな顔を浮かべたにこあに口を開きかけた陽和は、奥から現れたヒトの姿を見留めてあっと声をあげた。
「きんじょー!ごめんねこんな早くに出勤させちゃって」
「いいっスよ。いつもより客多かったんでしょ?片付け大変そうだから呼ばれたっつーのは大体想像ついたっスから」
 黒カッターに同色のベスト。赤のネクタイを結びながら現れたのは、ついさっきスタッフルームで鉢合わせた男だった。
「あああああああああああ!!!!」
「・・・・あ」
 大袈裟に叫び立ち上がったにこあがお茶を零し、きんじょーこと金城夜人がそれを頭から浴びる。ここでなぜか大爆笑をキメた陽和がカウンターをバンバンと叩きながら、金城にタオルを投げ渡した。
「おま、ちょ、阿呆!避けるだろ普通!!!」
「避けれないッスよ普通」
 髪やら服やらをゴシゴシとぬぐいながら、金城は笑った。
「すんません!!!あの、ほんとすんません!!!」
 90度に腰を折って謝るにこあに「気にしないで」と微笑むと、金城は彼を再び座らせた。その横に腰掛けて、今だ笑い続ける陽和にタオルを返す。
「・・・・シャワー借りてもいいッスか先輩」
「おお、好きに、しろよ、アホっあーほんとアホっ」
 過呼吸でも起こすんじゃないかと心配になるほど、腹を抱えて笑う陽和を完全無視して席を立つ。金城はにこあにお辞儀をすると、その場を立ち去り二階へと上がっていった。
 ひとしきり笑った陽和が新たに注いでくれたカモミールティーに、口をつける気にもなれずに、にこあはうなだれる。
「やらかした・・・」
 ぼそりとこぼすと、くくくっと笑いながら陽和がつぶやいた。
「気にしなくていいよ、あいつ基本アホだし」
「いや、でも・・・」
 なおも言い募ろうとするにこあの唇に人差し指を押し当て、陽和はウインクを飛ばす。
「あんま可愛い事ばっかり言ってると、キスしちゃうよ?」
 言った陽和の端正な顔が、自分に近づいてくる。彼は人差し指を唇から離すと、にこあの顎に手をかけた。近くて見ると女と見紛うほどの綺麗な顔だなぁと思いながら、にこあは「アホ」と吐き捨てた。
「そーゆーのは他所でやれよ、俺はお断りだっつの」
「毒舌なところもステキ♪」
「お前なぁ・・・」
 にこあが呆れながらつぶやくと、陽和は笑いながら離れていった。こいつに恋人ができないのは性格に問題があるな、と再確認した彼はカモミールティーを一気に飲み干す。
 片付けを再開した陽和が食器を拭きながら、にこあに「そういえば」と話を持ち出したのは、数分経ったころだ。
「さっきの赤髪、金城夜人って言って俺の後輩なんだよ。バーの経営手伝ってくれてる俺のビジネスパートナー。ちなみに現在彼女いないし、彼氏もいない」
 会うのは初めてだよね?と問われて、にこあは曖昧に返事を返した。それが引っかかったのか、陽和が問い詰めてくる。
「初めてじゃないの?」
「いや、さっきロッカーで会ったくらい。ほんと今日がはじめて」
「あ、だからさっき驚いてたのか」
 ひとりで納得しながら、陽和は皿を重ねて棚へ戻していった。
「陽和は付き合い長いの??」
 ふと口をついて出た言葉に、社交辞令だと理由をつけて返答を待つ。にこあは陽和をみつめたままで、陽和は別段気にした風もなくさらりとこう言った。
「まぁ大学時代から注目の的だったからね、俺らのサークル。桜欄高校ホスト部って漫画知ってる?アレの真似してホストサークルやってたんだよ」
 そこのナンバーワンを争ってたのが、俺ときんじょーだったんだ。
「え、そんなサークルが設立できんの?てか争ってた?は?」
 突拍子もない言葉の数々に、また頭が混乱してくる。陽和はいつでもブッ飛んだ発言や行動をしている人間ではあるが、こればっかりは初耳だ。
「事実だよ・・・俺興味なかったんだけど、ぴよぴよ先輩に騙されて入部しちゃったのが良い思い出」
 会話に割って入ってきたのは、バスタオルをかぶって上半身裸の金城だった。再び驚かされたにこあが、咳き込みながらテーブルに頭をぶつけた。
 余分な肉のついていないしなやかな体はしっかりしていて、それでいて無駄がない。それを真正面から見てしまったにこあの心臓が、再び走り始めた。急激に体温があがり、顔が真っ赤になる。
「お前そんな格好で店に出るなってば」
「いや、替えの制服どこっすか・・・あと、ドライヤー借りたいんすけど」
「あ、そうか服も濡れたのか」
「はい」
「了解、ちょっとまってろ出してくる」
 そう言って消えていく陽和に「行くな」とも言えず、にこあは金城に目も合わせられぬままうつむいていた。

 まるで恋でもしてるかのような、そんな感覚。
 久しぶりに身体を襲うその感覚に戸惑いながら、ちらりと金城を盗み見る。いつの間にか横に座っていた彼は、にこあの視線に気づいて笑った。
「ごめんな、色々と」
「いや、べつに、だい、じょぶ」
 やっとの思いでそれだけを言うと頭をあげた。
「俺、新橋にこあって言います。えっと・・・陽和とは幼馴染で、今は高校の寮に住んでて、土日の昼ここでバイトしてにゃっ、す」
 噛んだ、ありえねぇところで噛んだ。今のナイ。
 内心で焦りながらそうつぶやいて、恐る恐る金城を見る。彼


<<重要なお知らせ>>

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@peps!・Chip!!は、2024年5月末をもってサービスを終了させていただきます。
詳しくは
@peps!サービス終了のお知らせ
Chip!!サービス終了のお知らせ
をご確認ください。

はくつくつ笑いながら、にこあの頭を2、3回優しく叩いた。
「んな緊張しなくていいよ、ため口でいいし。俺は金城、よろしくな」
 にかっと笑う顔に、どくんと心臓が大きく跳ねる。
 にこあは耳まで赤くすると、裏返りそうになる声で「ハイ」とだけ呟いた。
「おいおい俺の可愛い弟分に手ぇ出すなよ?」
「なんの話ッスか先輩」
 ほがらかに笑い会話を弾ませながら、金城は戻ってきた陽和からドライヤーと着替えを受け取る。それから「じゃあまた」とだけこぼすと、再び姿を消した。
「めっちゃ良い人だな・・・」
 噛み締めるようにつぶやいて、にこあは彼の消えた方をみつめる。その視線を追った陽和は苦笑しながら、空になった彼のティーカップを下げた。
「一目惚れ?」
「っんな訳ねぇし!!!!!」
 ごまかすように吠えて、にこあは立ち上がる。その手が陽和の頭をぺしっと叩くと、頬を赤く染めた彼が更に吠えた。
「ひとめ、ぼれとか!!!!相手男だし!!!」
「でも、あいつなら別にいいんじゃない?恋愛に歳も性別も関係ないっしょ」
「だから惚れてねぇええええええええええええええええええ!!!!」
「はいはい、可愛いなぁほんと」
 よしよしと髪を撫でられ、くっと奥歯を噛み締める。陽和にからかわれているのは十分にわかるのだが、心がそれを許さない。
 にこあは不機嫌丸出しになりながら椅子にふんぞり返った。
「そんな怒るなよ、どうせ明日学校休みだろ?」
「は?」
「あいつのシゴトする姿見たくないの?明日非番にしてやるよ」




「で。なんでこうなるんだよ」
 渋面を浮かべてにこあは言った。カウンターの中で笑いをこらえているのは、案の定陽和である。彼はにこあから視線を外し、シェイカーを振ってスマートに客と談笑し始めた。その姿が様になっていて、なんだか腹が立つ。
 腰に巻き直したエプロンを見下げ、にこあは深々とため息をついた。
 きんじょーさんのシゴト姿は見てみたい。だけど、だからと言って。
「なんで手伝わされるんだよ」
 ぎっと陽和を睨みつけて、物言わぬ彼に舌を出してみせる。
「にこあたん、これ1番テーブルにお願いね?」
 にっこりと笑う陽和から強引に奪うようにしてトレーを受け取る。
 にこあは銀のトレーの上にグラスを二つのせて、テーブル席をまわった。
「お待たせいたしました」
 普段と変わらぬ態度で言葉を並べる。酒の名前はわからないので、そのまま客の前に静かに並べた。不機嫌でも笑顔は崩さない。
「失礼いたします」
 静かにお辞儀をして踵を返した。カウンターへ戻ろうとすると、客の一人に腕を掴まれる。
「新人さん?せっかくだしちょっとしゃべろうよ」
 男は強引ににこあをひっぱると、自分の隣に座らせる。対側に座る男も、嫌な笑みを浮かべていた。
「業務中ですので・・・・・」
 苦笑しながらゆっくりと手を離す。今度は腰を掴まれ引き寄せられた。
 くっそ、なんだコイツ気持ち悪い。
 心の中で悪態を吐きながらも、笑顔は崩さない。
「別にいいじゃん、俺ら客だよ?少しは言うこと聞いてくれたっていいんじゃないかな」
 腰に掛けられた指が徐々に胸元へと上がってきた。カッターシャツのボタンが開けられる。
 さすがに怒っていいよな。
 そう判断したと同時に、にこあの拳が握られる。それが男の顔面めがけて飛ばされようとした。
 ぱしっと軽い音がたち、大きな影が覆いかぶさった。拳が掴まれ、肩に手が触れる。耳に残る低音の声が、小さく囁いた。
「良い子だな、そのまま動くなよ」
 金城がすっと姿勢を正す。男たちはいきなり現れた従業員に怖気づきながらも、その身を引こうとはしない。
「すみませんお客様、まだ彼は不慣れですので。ご用件なら代わりに伺いますが」
 ふっと微笑む彼の目はどこまでも黒く、男たちに恐怖心を駆り立てる。
 にこあを男から柔らかい物腰で離すと、自分の後ろにたたせて金城は笑った。
「ご注文の際は私をお呼びください。それでは」
 にこあの肩を抱いてその場を離れると、彼は陽和に目配せをした。陽和はなにかを承知した様に、顎で店の奥を差す。
 ひとり状況の掴めないにこあは導かれるまま歩き続けた。廊下を進みスタフルームへ入ると、パイプ椅子に座らされた。
「大丈夫?」
 ふと、降ってきた優しい声がにこあの耳に届いた。見上げると、優しく自分をみつめる金城の姿がある。先ほどの怖い雰囲気は、跡形もなく消えていた。
「夜の客はまぁ、酒入ってるから。あんま気にすんなよ」
 言いながら彼は自分のロッカーを開けると、ミネラルウォーターを取り出してキャップを開けた。それをにこあに手渡すと、飲むように言う。
「ああいう経験初めてでしょ、落ち着くまで少し休んで」
 そう言って彼はにこあに背を向けると、部屋を出ていこうとした。
「あ・・・」
 無意識ににこあの手がのび、彼の服の裾を掴む。
「?」
 首をかしげる金城の髪が、さらりとなびいた。寝癖だらけだった髪はまっすぐ伸びており、蛍光灯に照らされ燃えるように赤く見える。
「ありがとう」
 それだけ言って手を離した。にこあは表情を隠すようにうつむくと、もう一度小さく礼を言う。
「気にすんな」
 ふっと笑んだ金城の手が、ぽんぽんと彼の頭を叩く。金城はゆっくりと彼から離れると、今度こそ部屋を出て行った。
「かっこよすぎだろ・・・・・・・」
 撫でられたところに触れてみて、にこあはぽつりと呟いた。
 客に触られた気持ち悪さは、当に消えていた。










「先輩」
 店に戻ってきた金城が、不服そうな顔でカウンター内の陽和に声をかける。陽和は別段気にした風もなく、ついっと角のテーブル席に視線を投げた。
「さっきの客、お前がいない間に帰ったよ。なにされるかわかんねぇとか言って」
 震えてたんだぞ?もう可笑しくって、笑いこらえるので大変だったよ
 そう続けて話す彼をにらみつけると、金城は厳かに呟いた。
「あの子未成年スよね、店に出すのがそもそもおかしいス」
「むむむ・・・先輩に口答えするのかっ」
「関係ないス」
 ぴしゃりと言い切って、にらみをきかせる。陽和はわざとらしく方をすくめると、なにげなく外に目をむけた。
 と、
「・・・あ!?」
 がたがたっとカウンターから出ると、ドアへとかける。
 カランカランと鈴が鳴って、飛び出した陽和を虚しく送り出した。いきなり何事かと、店内に残る数名の客がそちらに目を向ける。夜人はなんでもないですよ、とでも言うようににこりと笑った。
 彼がちらりと窓の外へ目を向けると、黒髪の少年が陽和となにやら話しているのがわかる。話は聞こえなかったが、どこか幸せそうに笑う少年が印象的だった。





「いやぁ、すまないね。飛び出しちゃって」
 別に悪びれた様子もなく言う陽和に、夜人は大きなため息で返事をした。時刻は深夜1時。とうに店は閉店しており、夜人が店の片付けを一通り終えた後だった。
「ごめんなさい・・・」
 陽和にしがみついたまま頭を下げる少年が、怯えたように夜人に言う。
「に、にこあちゃん迎えにきたんです」
「えっ・・・?」
 思いがけない言葉に、そんな言葉が口をついて出た。
 陽和はでれでれしたまま彼―――中村歩人の肩を抱き、頬にキスを落とす。
「こいつ見た目は怖いけどいいやつだからね、怖がらなくていいよ」
「う、ん・・・・ごめんなさい」
 謝りながら、こちらもキスを返す。
 目の前でやるな、と文句を言ってやりたいのは山々だが、それを飲み込んで夜人はついっと店の奥を指差した。
「にこあ・・・さん、ならスタッフルームにいるよ。迎えに行ってあげな」
 その言葉に、ぱぁっと歩人の顔色が明るくなった。彼は一度陽和を見上げると、「行ってもいい?」と確認をとる。
 陽和は鼻の下をのばしたままうんうんと何度も頷くと、優しく彼の背中をおした。同時に歩人が駆け出し、店の奥に消える。
「・・・・手ェ出すなよ?」
 後ろ姿をみつめていた夜人の脇腹を肘でつつくと、陽和は真面目にそう言った。
「なに、彼女?」
「いや、ごめん彼氏」
「女のこみたく可愛い子っすね」
「でしょ、将来ニューヨークで挙式を挙げます」
「まじスか」
「まじっす」




(コメント)
とんだものかいてすみませんでした

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